いかにしてISETAN HAUSの空間は生み出されたか。
名和晃平インタビュー

KOHEI NAWA INTERVIEW with SHIGEO GOTO

G:今回のISETAN HAUSの店舗内装は、名和晃平が率いるSANDWICHのディレクションによるものです。ISETANサイドの基本構想をもとに、SANDWICHがコンセプトを再定義して表現に昇華していったわけですね。

N:SANDWICHは、僕がディレクターを務める「クリエイティブ・プラットフォーム」であって、自分自身のアートワークとはフェイズが異なっています。SANDWICHは、僕の考える「彫刻」という概念を拡張して、アート・建築・デザイン、そして教育分野への化学反応を試みる実験場(あるいは、遊び場)です。単純にアートをデザイン応用しようということではないし、ISETAN HAUSのフロアーの空間を、いかにインテリアデザインすればよしという考えとも違います。

G:コトバとしては表面化していませんが、SANDWICHが再定義し、各フロアーに対して提出したキーワードは、「シャンデリア」「リズム」「ミソロジー(モノガタリ)」でしたね。

N:最初ISETANサイドからのテーマ設定は、当たり前なんですが商空間のロジックでできていました。その中のキーワードとして「クリスタル」というのがありました。

G:商空間は、もちろん商品を際立たせたり、人々の欲望を喚起させることが不可欠な課題です。名古屋駅前の第一等地のデザインをアーティストに託すというのは、ISETANも大胆で野心的だし、時代や消費のパラダイムがシフトして来ているのを強く感じますね。

N:今、ブランドの戦略や商業空間は、アートとコマーシャルの関係が曖昧になってきているのが事実としてあります。そこにはいい面も悪い面もあると思っていて、それをどうすれば面白くできるか考えるわけです。例えば、「クリスタル」ということを、商業空間のロジックだけで考えてしまうと、「ゴージャス」さとか「装飾性」というキーワードに回収されてしまう。だから逆に、商業空間の中にいかに「ボイド」としてのアートを取り込めるかということが結構ポイントになると思いました。装飾ではなくて、非装飾性によって、装飾とか商業空間を批評的に見直すことができたら、と思ったんですね。

G:クリティカルで、クリエイティブな方向性ですね。肯定でもなく、否定でもない、超えたものをどうやって作れるか。

N:そうですね。僕はディスプレイ・デザイナーではないので、そういう役割を頼まれているのではないと解釈しました。例えば、テーマを表現しなければならない場所を、完全に意味やストーリーを剥奪したようなものだけで構成する。だけどそれはネガティブなものではなくて、空間がかえって活性化させることができれば面白い。例えば、「リズム」というのは、まさに空間にリズムを与える、というただそれだけのシンプルなアイデアです。それ以上でも、それ以下でもなく、「黒いボール」を空間に点在させました。「デザインしない」という意味では「ボール」とか「キューブ」がいいかなと思ったんです。それで大小のリズムを出す。意味はないと言ったんですが(笑)、実はとてもフィジカルに確認しながら作っていて、空間の中を歩いていくうちに、視覚的にも体感的にも、気持ちの良いリズムが生まれるように配置したつもりです。

G:なるほど、装飾で空間をソリューションするのではなくて、身体性とリズムでね。

N:この間、シンガポールで建築家、ジャン・ヌーヴェルが設計した建物に設置した彫刻のコンセプトもそうでした。鹿を使ったビーズの作品も根本は同じです。つまり、「球体」の大小のサイズは空間の中にリズムを生み、見る人が身体や視点を動かすと、それが伝わってきます。例えば小さなものから大きなものへ、球体を追う視点が上へ向かって移動すると「軽み」が出てくる。それが逆だと「重み」が出てきます。

G:黒いボールは、それぞれのマテリアルは異なるんですか?

N:2階のものはすべてマットな黒です。光を吸収するために。

G:ブラックホールですね。

N:そうです、ボイドです。地下のものはチリチリと光る炭化ケイ素や、見る角度で色が変わるものが互い違いに配置されています。でもそこに特に意味は見当たらないようにしてあります。

G:面白い(笑)。今までにはない発想だ。「シャンデリア」の部分も白と黒ですね。

N:ここは元々シャンデリアの場所という前提があるようでしたので、きらびやかなシャンデリアを誰もがイメージしていたのかも知れませんが、そうではないものにしました。「リズム」という考えを発展させて、「細胞」「結晶」「種子」などをテーマとした造形の単位のようなものを宙に浮かべました。「物語」の始まりとしての「種」みたいなものの集まりとでも言いましょうか。

G:宇宙っぽいわけですね。

N:そうですね。ある種の始まりとしての未分化なエレメントです。これらはすべて3Dデータでスタディを行い、それを成形してテクスチャをつけて仕上げています。彫刻のように仕上げると商業空間と喧嘩してしまいそうなので、浮かせたいと思いました。

G:でも何だか、見てみると宇宙の始まりみたいなイメージがあって、それらの「始原の種」がどこかに飛んで行って、そこからまた何かが始まるみたいにイメージが広がっていきますね。

N:そう。「物語」が始まる種みたいなもの。その物語を、僕の美大からの友人でもある画家の松本尚さんに壁紙のアートにして貰いました。僕は最初、「ミソロジー」というキーワードが浮かんだんですが、松本さんと話して「モノガタリ」になりました。

G:仕上がった壁紙を見ると、空間の中を「種」たちが旅しているように見えてきます。

N:「シャンデリア」で作ったエレメンツのイメージを全て彼女に渡して、それを彼女が鉛筆でデッサンし、自然の現象や人間、動物の中を通過していく。「絵本」の一部みたいにうまく物語化されたと思います。

G:ある種、とても現代的なタペストリー。まさにモノが語るタペストリーですね。

N:モノだけ見ても分からない場合も「モノガタリ」を見ることで、イメージの奥行きが感じられる。その「モノガタリ」の壁紙を見た後にモノを見ると、また違った見え方をしてくる場合もあるから、相互に補完し合ってイメージが成長していけると思います。

プロフィール

SANDWICH Inc.

「SANDWICH」は2009年に京都市伏見区の宇治川沿いにあるサンドイッチ工場跡をリノベーションすることで生まれた創作のためのプラットフォーム。彫刻家、名和晃平のディレクションのもと、アーティストやデザイナー、建築家など様々なジャンルのクリエイターが集い、オープンなネットワークの中でコラボレーションを展開している。学生が中心となるULTRA SANDWICH PROJECTや、国内外のクリエイターが滞在するレジデンスプログラムなど、同時多発的に様々なプロジェクトが進行中。

後藤繁雄

(編集者、クリエイティブ・ディレクター、京都造形芸術大学教授)
「独特編集」をモットーに80年代から多くの出版物を手がけるほか、坂本龍一、篠山紀信、蜷川実花らのアーティストブック、広告制作、展覧会プロデュースなど、ジャンルを超えて幅広く活動。東京・恵比寿に、現代写真をグローバルにあつかう専門ギャラリー「G/P」を主宰。また、日本の若手コンテンポラリーアーティストと企業をコラボレーションさせるプロデュースを積極的に行い、伊勢丹新宿本店のリモデルも成功させた。今回も、名和晃平のキャスティング、コーディネートを行う。

このサイトについて

ISETAN HAUSのアートディレクションを担当した名和晃平が率いる、クリエイティブ・プラットフォーム「SANDWICH.Inc」によるアートワークを中心としたサイト。
店舗デザインのコンセプトである「結晶」を「種」ととらえ、種から芽がでるようにISETAN HAUSの内装エレメンツの一つである壁紙から「MONOGATARI(ものがたり)」が展開されていく。また、実際のシャンデリア配置図から作られた数字書体によって、サイト開設から経過した時間をグラフィカルにカウントアップ。
名和晃平インタビューも掲載され、サイトそのものがアート作品となっている。サイトデザインは、セミトランスペアレント・デザインが担当。